大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和36年(ネ)15号 判決

松江市北田町一〇四番地

控訴人(附帯被控訴人)

大野賢一

右訴訟代理人弁護士

篠田嘉一郎

松江市内中原町

被控訴人(附帯控訴人)

松江税務署長

広戸常義

指定代理人 森川憲明

上野国夫

米沢久雄

岡野進

田原広

中本兼三

横田正美

浅田和男

石田金之助

右当事者間の昭和三六年(ネ)第一五号第五〇号所得税更正決定取消請求控訴並に附帯控訴事件につき次のとおり判決する。

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人が昭和二七年三月三一日付通知書により控訴人の昭和二六年分の事業所得に対してなした更正処分のうち、所得金額八八九、五八七円を超える部分はこれを取消す。

控訴人のその余の請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用(附帯控訴費用を含む)は第一、二審を通じこれを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を左のとおり変更する。主文第二項記載の更正処分のうち所得金額二一六、七九九円、所得税額四三、四三九円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」。との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」。との判決並に附帯控訴として「原判決中附帯控訴人敗訴の部分を取消す。附帯被控訴人の請求を棄却する。附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする」。との判決を求め、附帯被控訴代理人は「本件附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、左記のほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は「不動産の売買益に関する被控訴人主張の3、4の事実中、控訴人が鳥取県共同募金委員会に売却した残り四四坪三合を自家用宅地として使用していることは認める。同10の事実中、不動産の転売先、転売価額、受取手数料は認めるが、その不動産は松江市雑賀町字六丁目七一六番地の一宅地四七坪二合五勺、同地上木造瓦葺二階建居宅、木造瓦葺二階建倉庫を千代田生命から金三三五、〇〇〇円で、同所七一六番地宅地一七坪四合五勺を同会社湯浅某から金二〇、四〇〇円で買入れたものであり、必要経費は金一〇、四〇〇円(上敷代金四、一四〇円、菓子代金四〇〇円、生命保険料金五、四三〇円、その他諸経費金四三〇円)である。」と述べ、立証として当審における控訴本人訊問の結果を援用した。

理由

当裁判所の判断は

(一)原判決一五丁裏九行目「証拠はない」の次に「原審における控訴本人訊問の結果により真正に成立したと認める甲第二号証によつては、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第七号証の一、第八、第三六号証に照らし、未だ控訴人がその主張の追払金を支払つた事実を認めるに足りない。」と加え

(二)一六丁表一行目から裏八行目までを「控訴人が不動産売買の営業として、諏訪部重光所有の松江市北田町一〇五番一の田六畝四歩(現況宅地一八四坪)を代金一八四、〇〇〇円で、またこれに隣接する西ヨシノ所有の同町一〇五番三の宅地四一坪二合を代金四一、〇〇〇円で購入し、そのうち一八〇坪九合を島根県共同募金委員会に代金二三四、九三六円で売却し、残り四四坪三合を自家用宅地として使用していることは当事者間に争がない。そうすると右四四坪三合を自家用宅地として使用するに至つた時期の価額を収入金額に算入すべきものであるところ、当審における控訴本人訊問の結果によると、その時期は右一八〇坪九合を前記委員会に売却したのとほぼ同じ頃であることが窺えるから、特段の事情のない限り、その時期における右四四坪三合の価額は右一八〇坪九合の売却代金に比例して算定するのが相当であり、従つて被控訴人主張の評価額金五七、一一一円を妥当とする。そして右取引に当つての必要経費が金一九、三六四円であることは当事者間に争がないから、控訴人の利益は金四七、六八三円である」。と改め

(三)二〇丁裏七行目に「第三四」とあるを削り

(四)二一丁表一〇行目から二二丁裏三行目までを「控訴人が松江市雑賀町字六丁目七一六番地の一、宅地四七坪二合五勺、同地上木造瓦葺二階建居宅、木造瓦葺二階建倉庫および同町七一六番地宅地一七坪四合五勺を一括して協和銀行に代金三九〇、〇〇〇円で売却したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第七号証の一、第三八号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第三九号証、原審証人中山武夫の証言により真正に成立したと認める乙第二二、第二三号証、原審証人中山武夫、別所忠雄の各証言、当審における控訴本人訊問の結果によれば、右不動産は千代田生命ほか一名から買入れたものであつて、その買入価格は合計金三五五、四〇〇円であつたことが認められる。なお右証人中山武夫の証言によると、前記売却代金三九〇、〇〇〇円のうち、金一〇、〇〇〇円は協和銀行において負担すべき修理費であつて、売買益とは関係のないものであることが認められる。そして控訴人が手数料として売主より金一〇、〇〇〇円、買主より金一九、〇〇〇円を受領したことは当事者間に争がなく、また右取引の経費として上敷代金四、一四〇円、接待用菓子代金四〇〇円を計上すべきことは当事者間に争いがないけれども、控訴人主張の生命保険料は右取引の心要経費に計上すべきものとは認めがたく、その他主張の諸経費もその内容が明らかでないから、これを計上すべき限りではない。したがつて控訴人の売買益は金四九、〇六〇円である。」と改め

(五)二二丁表五行目から六行目、二六丁表末行の各「金七二五、〇六二円」を「金七一七、四三七円」に、二六丁裏二行目「金八九七、一七六円」を「金八八九、五八七円」と改めるほか

原判決の理由(原判決一二丁裏八行目から二六丁裏二行目まで)と同じであるから、これを引用する。

当審における控訴本人訊問の結果中、控訴人が今村宇市に金八、〇〇〇円を支払つた、別所忠雄から受取つた骨とう品は手数料の代物弁済として受領したものではない、川瀬貞雄に追加金六、〇〇〇円を支払つた、岡光に対し売買代金四五、〇〇〇円とは別に手数料五、〇〇〇円を支払つた、不動産売買益に関する被控訴人主張の6の取引については、売買の世話をしたにすぎない旨の部分は、成立に争のない乙第四八号証、前掲乙第七号証の一、第八、第三六号証、原審証人別所忠雄、岡光の各証言等に照らし措信しがたい。

そうすると被控訴人の更正処分中、所得金額金八八九、五八七円を超える部分は違法であるから、その限度においてこれを取消すべきであり(控訴人は所得税額の変更をも求めるが、右取消により税額も当然変更されるのであつて、本訴においては所得控除等につき何らの主張もなく、争になつていないから、その税額は算出しない)、控訴人の本訴請求は右限度において正当であるが、その余は失当として棄却すべきである。

よつて原判決は一部失当であるから、本件控訴に基きこれを変更し、本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 石川恭 裁判官高橋文恵は転任につき署名捺印できない 裁判長裁判官 高橋英明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例